『ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』が秀逸!
今から12~13年後の、2025年はどうなっているのか?どのような働き方を送っているのか? 英タイムズ紙「世界のトップ15 ビジネス思想家」にも選出された著者の力作『ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』が、素晴らしい仕上がりになっている。
[追記] 2013/04/27 発表された「ビジネス書大賞2013」において見事、本作が大賞を受賞。ぜひお読み頂きたい名著だ。
著者自らが語る ⇒ PRESIDENT Online 『ワーク・シフト』著者、リンダ・グラットン教授に聞く「なぜ私たちは漠然と未来を迎えるべきではないのか」(上)
▼特徴を一言でいうと
優れた未来予測本。2025年、私たちはこんなふうに働いている。
この本は、4部構成になっているので、目次を見ながら、それぞれについて見て行きたい。
五つの要因それぞれに複数の「現象」があげられており、非常に興味深い。
▼要因1 テクノロジーの進化
3.地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる
8.バーチャル空間で働き、「アバター」を利用することが当たり前になる
9.「人工知能アシスタント」が普及する
(10つある現象の一部抜粋)
▼要因2 グローバル化の進展
1.二四時間・週七日休まないグローバルな世界が出現した
6.世界中で都市化が進行する
8.世界のさまざまな地域に貧困層が出現する
(8つある現象の一部抜粋)
▼要因3 人口構成の変化と長寿化
2.寿命が長くなる
4.国境を越えた移住が活発になる
(4つある現象の一部抜粋)
▼要因4 社会の変化
1.家族のあり方が変わる
2.自分を見つめ直す人が増える
6.幸福感が弱まる
(7つある現象の一部抜粋)
▼要因5 エネルギー・環境問題の深刻化
1.エネルギー価格が上昇する
(3つある現象の一部抜粋)
全部で32の現象があげられているのだが、非常に興味深いし、読んでいて単純に面白いと思う。ぜひ書籍で確認して頂きたいと思う。
個人的には、”「アバター」を利用することが当たり前になる” 項目に驚いたし、”エネルギー価格が上昇する” ことによって、 モノの輸送や人の移動を減らす必要性が大幅に高まるという予測は、興味深かった。
第2部・第3部は、物語形式で、悲観的なシナリオ・楽観的なシナリオがそれぞれ複数提示されている。ストーリー形式なので、イメージしやすいし、記憶にも残る。(ぜひ、NHKの特集などで映像化して欲しい内容だ)
なお、第5章のタイトルにもなっている「コ・クリエーション」とは、協創のことで、”世界中の人々がアイデアと情熱を提供し合って、共同でものごとを成し遂げる”ような事を指す。
好感が持てた、著者の言葉に
未来を予測することは基本的に不可能だが、どのような要因が未来に大きな影響を及ぼす可能性が高いかはわかっている(P165)
があった。(私の経験上、「未来は予測できない」と率直に語る人の本は、良書が多い)
著者は、世界規模の研究組織「働き方コンソーシアム」で、大規模な調査や、活発な議論を展開している。研究成果とも言えるほど優れた未来考察は、「知っておいた方が身のため」の良質な情報が満載である。
第4部では、いよいよ、3つの働き方の転換<ワークシフト >について、詳細に述べられている
第1のシフト「知的資本(知識と知的思考力)」
▼高い価値をもつ専門技能の三条件
1.その技能が価値を生み出すことが広く理解されていること
2.その技能の持ち主が少なく、技能に対する需要が供給を上回っていること
3.その技能がほかの人に模倣されにくく、機械によっても代用されにくいこと
正直、こういった内容は、さまざまなビジネス書で述べられているのだが、下記の「今後価値が高まりそうなキャリアの道筋」と、「とくに重要性を増す4つの専門技能」は、この本ならではの説得力があって秀逸だった。
▼今後価値が高まりそうなキャリアの道筋
キャリア1.草の根の市民活動家
キャリア2.社会起業家
キャリア3.ミニ起業家
▼とくに重要性を増す4つの専門技能
専門技能1.生命科学・健康関連
専門技能2.再生可能エネルギー関連
専門技能3.創造性・イノベーション関連
専門技能4.コーチング・ケア関連
就職・転職をお考えの方は、見逃せない内容となっているだろう。こちらも、ぜひ書籍で詳細を確認して頂きたい。
第1のシフトについては、関連本として下記の3冊を推奨したい。
また、私が共感を持てた、著者の言葉に
未来が予測どおりになる保証がないことを考えれば、自分が好きなこと、そして、情熱をいだけることを職業に選ぶのが賢明だ。(P263)
があった。下記の本を読むと、「好きなことを仕事にするにはどう考え、どう行動すべきか」が分かると思う。
第2のシフト「人間関係資本(人的ネットワークの強さと幅広さ)」
孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」への提案として、下記の三種類の人的ネットワークの構築が提案されている。
▼3つのタイプの人的ネットワーク
1.ポッセ(頼りになる同志)
2.ビッグアイデア・クラウド(大きなアイデアの源)
3.自己再生のコミュニティ(支えと安らぎの人間関係)
このトピックだけだと分かりづらいと思うので、少し補足説明したい。
1.ポッセ(頼りになる同志)
・比較的少人数(15人以下)のグループ、声をかければすぐ力になってくれる面々
・メンバーの専門技能や知識がある程度重なっており、信頼関係で結ばれている
2.ビッグアイデア・クラウド(大きなアイデアの源)
・友達の友達など、自分の人的ネットワークの外縁部にいる人たち
・メンバーの数が多いほうがいい。何百人もありうる。
3.自己再生のコミュニティ(支えと安らぎの人間関係)
・温かみのある人間的な絆(これまでより意識的にはぐくまないと手に入らない)
人的ネットワークに関しては、私の好きな言葉に「必要な人脈は、必要なタイミングで向こうからやってくる」があるのだが、本書でも、
「プッシュ(=押す)」ばかりなく「プル(=引き寄せる)」を心がけること。多くの人の名前を覚え、多くの人と接するだけでなく、多様な人たちに自分に興味をもってもらい、向こうからアプローチしてもらう必要があるのだ(P323)
という言葉があった。人間関係資本は、目に見えない無形資産であるが、本書を読んで「まずは自分の実力をつけること」「その上で、人と協力すること」などの大切さを再認識した。第2のシフトについては、関連本として下記の3冊を推奨したい。
中でも「抜擢される人の人脈術」は、個人的にはいわゆる「人脈本」のベスト1だと思うので、(内容は高度ではあるが)特にオススメである。
参照: 【書評】抜擢される人になるには? - 抜擢される人の人脈力 – 女子勉
第3のシフト「情緒的資本(自分自身について理解し自分のおこなう選択について深く考える能力、勇気ある行動を取るため欠かせない強靭な精神をはぐくむ能力)」
第3のシフトについては、価値観に関わる深いテーマなのだが、キーワードとしては、「やりがい」「生きがい」「情熱」「バランス」「仕事観」「経験」「幸せ」「不安との付き合い方」などが挙げられる。
本書には全く出てこないのだが、個人的には “「死」を意識する・「死生観を養う」” のが、第3のシフトについて深く考える有効なアプローチだと思う。関連本として下記の3冊を推奨したい。
・・・この本では、第1~第3のシフトの内容について、表現を変えて繰り返し伝えられている。中でも、翻訳者の池村千秋氏のまとめが秀逸なので、最後の総括の意味で取り上げたい。
・<第一のシフト>は、一つの企業の中でしか通用しない技能で満足せず、高度な専門技能を磨き、ほかの多くの人たちから自分を差別化するために「自分ブランド」を築くこと。
・<第二のシフト>は、難しい課題に取り組むうえで頼りになる少人数の盟友グループと、イノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢の知り合いのネットワーク、そしてストレスを和らげるための打算のない友人関係という、三種類の人的ネットワークをはぐくむこと。
・<第三のシフト>は、大量消費主義を脱却し、家庭や趣味、社会貢献などの面で充実した創造的経験をすることを重んじる生き方に転換すること。
(P385 訳者あとがき)
[追記] 2013/04/27 発表された「ビジネス書大賞2013」において見事、本作が大賞を受賞。ぜひお読み頂きたい名著だ。
[追記] ※ 以下のイベントは、既に終了
人気ブロガーであり著者としてもご活躍されている、ちきりんさんの呼びかけで、本書を題材に「Social book reading with Chikirin」が開催されるとの事。
参照: ちきりんと一緒に 『未来について考えよう!』 – Chikirinの日記
2012年10月6日(土) 8時PM~10時PM 。興味のある方は、ツイッターイベントにも参加してみてはいかがだろうか。
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